撃たれた話

スーパーで買い物をしたあと、ダイソーに向かった。揚げ物に使った油を吸い取ってくれる、分厚いティッシュのようなアレが欲しかったから。なぜかアレはスーパーでは売られていない。油と一緒に売ればいいだろうに。世の中狂っているなと思うのはこういうときだ。

ダイソーの入り口の手前には、消毒液と女性の店員さんが仲睦まじげに並んでいた。よほど消毒を徹底したいのだろう。反抗する気もないので、声をかけられる前に消毒液のボトルに手をのばし、押し出した液を丁寧に手に馴染ませた。消毒液の横には何やら注意書きのようなものが置かれていたが、裸眼だったのでよく見えなかった。まあきっと、頼むから消毒をしてくれみたいなことが書かれていたのだろうと思う。

消毒を終えて歩き出そうとしたとき、そばに立っていた店員さんと目が合った。何かを言われた気がしたが聞き取れなかった。ほんの一言だったし、大したことは言っていまいと思って曖昧な会釈をしながら通り過ぎようとしたとき、こめかみに何かを突きつけられた。

 

短く電子音が鳴ったあと、

「いいですよ」という声がした。

 

ダイソーには何故か、以前はあったはずのアレが売られていなかった。仕方がないのでシンク用のスポンジだけ買って店を出た。入り口にはあの店員さんがまだ立っていたのだろうか、覚えていない。わざと見ないようにして歩いたのかもしれない。

 

検温をされたのだなと気づいたのは家に着いてからだった。そういう類の体温計に触れたことがある人ならばすぐに理解したのかもしれないが、無識の人間にとってあれは凶器でありえた。なにしろこめかみに物をあてがわれたのだ。普通に生きていたら、こめかみなんてツボを押すか撃ち抜くかの二択しかない。あの注意書きには「消毒しない人間は店員が【消毒】します」みたいなことが書かれていたのかもしれないし、店員さんの一言は僕に命の選択を迫っていたのかもしれない。いや、たしかに僕はきちんと消毒をしていたわけだけど、人の目なんて正常か節穴かの二択しかないのだから悪い方を引いていてもおかしくはない。


以上の文章は、帰宅後、手洗いうがいをしたのち野菜などを冷蔵庫に詰め込み、息をつく間もなく書き出したものである。それぐらいあのときの僕にとっては刺激的な体験だったのだが、冷静に読み返すとただただ無知な人間が無用に騒いでいるだけだ。二十歳も終わろうとするころなのに。

僕の人生の全体がそうであったら面白いなと思うし、あるいはあのときあの場所で終わる人生も悪くはなかったなと思う。